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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)8556号 判決 1967年1月27日

原告 東京相互銀行

右訴訟代理人弁護士 林徹

被告 梅沢一

主文

被告は原告に対し金五九九、〇三〇円及び内金一二五、〇〇〇円に対する昭和四一年七月二〇日から、内金二一八、二二〇円に対する昭和四一年七月二五日から、内金二五五、八一〇円に対する昭和四一年七月二八日からそれぞれ支払済みまで日歩金五銭の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一項、第二項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、請求の原因として

一、原告は、昭和三九年二月一〇日、分離前の共同被告丸富縫製協同組合との間に、同組合の振出、引受、裏書または保証にかかる約束手形および為替手形にして原因の如何を問わず原告において取得した手形債務の不履行の場合は、同組合において支払うべき金額に対し日歩金五銭の割合による損害金を支払う、原告との諸取引に関する管轄裁判所を原告本店所在地を管轄する裁判所とするとの約定を含む手形取引約定を締結し、同日被告は右約定に基き同組合が原告に対して負担することあるべき一切の債務について連帯保証をした。

二、原告は、右の約定に基いて同組合から左記約束手形二通、為替手形一通を拒絶証書作成義務免除のもとに裏書譲渡を受けて所持人となった。

(一)  金額 金二〇〇、〇〇〇円、満期

昭和四一年七月二〇日、支払地 東京都台東区、支払場所 株式会社三菱銀行上野支店、振出地 東京都文京区、振出日 昭和四一年三月一〇日、振出人 丸富衣料株式会社、受取人兼第一裏書人 丸富縫製協同組合

(二)  金額 金二一八、二二〇円、満期

昭和四一年七月二五日、支払地 東京都新宿区、支払場所 株式会社東京都民銀行西大久保支店、振出地 茨城県水海道市、振出日 昭和四一年三月一九日、振出人 三和縫製株式会社、受取人兼第一裏書人 丸富縫製協同組合

(三)  金額 金二五五、八一〇円、満期

昭和四一年七月一八日、支払地 東京都中野区、支払場所 株式会社三菱銀行野方支店、振出地 東京都文京区、振出日 昭和四一年三月一〇日、振出人、受取人 丸富縫製協同組合、支払人、引受人 丸富商事株式会社

三、原告は、右各手形を満期に支払場所に呈示したが支払を拒絶された。なお丸富縫製協同組合は昭和四一年七月二〇日前記(一)の約束手形金のうち金七五、〇〇〇円を支払った。

四、よって原告は被告に対し(一)の約束手形金の内金一二五、〇〇〇円と(二)(三)の手形金合計金五九九、〇三〇円と各手形金につき主文第一項掲記の日から右金員に対する日歩金五銭の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べ、

被告の抗弁事実中、昭和四〇年一月一日被告主張の相互銀行取引約定書が作成された事実は認めるが、その余の事実は否認する。右約定書は、原告銀行の事務処理の都合上、昭和三九年二月一〇日付の手形取引約定書を新書式による契約書に作り替えたに過ぎず、原告、丸富縫製組合間の手形取引約定の同一性は維持されているのであるから、被告が右の手形取引約定に対して負担する連帯保証人としての責任を免れ得ることはない。と述べた。

被告は、「原告の請求を棄却する」との判決を求め、答弁として、

一、原告の請求原因事実はすべて認める

二、原告主張の手形取引約定は、昭和四〇年一月一一日、原告丸富縫製協同組合間で、新たに同組合が、原告との間の掛金契約、証書貸付、手形貸付、手形割引、当座貸越、債務保証その他一切の取引に関連して生じた債務の不履行の場合は支払うべき金額に対し日歩金五銭の割合による損害金を支払う原告との諸取引に関する管轄裁判所を原告本店所在地を管轄する裁判所とする旨の約定を含む相互銀行取引約定を締結しその旨の契約書を作成した(甲第一号証)ことにより、消滅している。被告は右相互銀行取引約定に際しても丸富縫製協同組合の連帯保証人となったかのように、甲第一号証の連帯保証人欄に被告の署名押印がなされているけれども、それは被告とともに同組合の代表理事である訴外高田雄市が、被告の氏名を冒署し、その名下に「丸富縫製協同組合代表理事之印」なる丸印を押捺したに過ぎないから被告が右相互銀行取引約定にもとづいて連帯保証の責任を追及されるいわれはない。

と述べた。

証拠として<省略>

理由

一、原告の請求原因事実は被告において認めるところである。

二、そこで、原告主張の昭和三九年二月一〇日付の手形取引約定書と、被告が主張する昭和四〇年一月一一日付の相互銀行取引約定書との関係について調べて見ると、成立に争いのない甲第五号証、同第六号証、分離前の共同被告高田雄市尋問の結果により被告作成名義の部分をのぞくその余の部分が真正に成立したものと認める甲第一号証ならびに同尋問の結果および証人山崎清勝の証言によると、原告と丸富縫製組合間の原告主張のような手形取引は昭和三六年三月六日から開始され、右取引に関して、当事者間に争いのないように昭和三九年二月一〇日付で同組合を主債務者とし、被告、訴外高田雄市、同里方繁雄を連帯保証人とする手形取引約定書(甲第六号証)が作成されていたが、原告は、昭和四〇年一月一一日、同組合との間に被告主張のような相互銀行取引約定を締結すべく同組合の業務の執行に従事していた訴外高田雄市に主債務者、連帯保証人欄のみが空白となっているほか約定の文言が活字で印刷されている約定書用紙を交付し、主債務者および連帯保証人欄に対する記入を受けて約定書(甲第一号証)の作成を得たものであるところ、右の約定書には、原告丸富縫製協同組合間の掛金契約、証書貸付、当座貸越、債務保証その他手形取引以外の金銭取引の約定についても記載があるけれども、原告、同組合間の手形貸付、手形割引の方法による取引ならびに原告が第三者から取得した同組合の振出裏書、引受、参加引受または保証した手形、小切手に関する債務に対する約定について記載があり、後者の手形の授受を伴なう金融取引の点において、前記甲第六号証の手形取引約定書が同組合の振出、引受、裏書、または保証にかかる約束手形および為替手形にしてその原因の如何を問わず原告において取得したものに関する手形取引について規定するところとその約定の範囲を共通にしているものであり、その範囲内において右甲第一号証記載の相互銀行取引約定と、甲第六号証記載の手形取引約定との間に同一性が認められるのみならず、右両約定間においては主債務者、連帯保証人ともすべて共通であるほか、とくに原告においては原告丸富縫製組合間の金融取引の形態は従前通り維持しながらも、相互銀行において備付けるべき相互銀行取引約定の様式が変ったことを理由として約定書を単に従前の甲第六号証から甲第一号証に差替える意図に過ぎなかったものであることが認められるのであり、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

以上認定にかかる事実を総合すると、原告、丸富縫製協同組合間の手形の授受を伴なう金融取引に関する約定として、甲第六号証記載の手形取引約定と甲第一号証記載の相互銀行取引約定との間には同一性があると解するのが相当であるから、被告が右手形取引約定において同組合の連帯保証をしたことが当事者間において争いがない以上、被告は前記相互銀行取引約定にもとづいて同組合に裏書譲渡した本件約束手形および為替手形金の支払について同組合の連帯保証人としての責任を負うものというべきことは明らかであり、この判断を覆えして被告の抗弁事実を認め得る証拠はない。

三、もっとも、前掲各証拠によると、甲第一号証の相互銀行取引約定書に記載されている被告の署名は、訴外高田雄市が権限なく冒署したものであり、その名下の印影は単に「丸富縫製協同組合代表理事之印」なる丸印が押してあるに過ぎないことからして、右約定書が被告の意思によって作成されたものではないことが認められるのではあるけれども、右のような事情があることを理由として、被告が、原告丸富縫製協同組合間において右約定書に記載することにより新に約定されたというべき掛金契約、証書貸付、当座貸越、債務保証その他手形の授受を伴なわない金融取引について同組合が原告に対して負担すべき債務に対する連帯保証人としての責任を負うか否かの点はともかくとして、前記のように甲第六号証記載の約定と同一性を保持する手形取引すなわち手形の授受を伴なう金融取引に基づいて同組合が原告に対して負担すべき債務の連帯保証人たる責任を免れ得べきものと解し難いことは、前項において判示したところによって明らかであるから、連帯保証人たる責任が消滅している旨の被告の主張は採用しない。

四、よって原告の請求を正当として認容すべく、<以下省略>。

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